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【GRAND SLAM PREMIUM 156】熱戦が続く 第93回都市対抗野球大会 通算50勝超の名門が一回戦で激突する

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 これなんだよな、という現場ならではの空気がある。振りつけがキレキレの応援リーダー。ノリのいいブラスバンドの演奏。蛍光色のビブスなどで同色に染まったスタンド。時にコミカルなゆるキャラ。私事ではあるが、ここ2年はリモート取材で球場にいなかったので、都市対抗の匂いが懐かしい。そして、東京ドーム外周の炎暑。夏の都市対抗が、3年ぶりに帰ってきた。

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東京ガスの笹川晃平主将による思いのこもった選手宣誓で、熱戦を火蓋が切って落とされた。

【写真=藤岡雅樹】

 

「大味な試合が続きますね」

 中継の解説を務める監督経験者とすれ違うのも、現場ならでは。確かに、一回戦前半は派手な空中戦が続いた。JR東日本は、1イニング3本塁打などで大阪ガスを8回コールドで圧倒し、JR東日本東北も8回コールドの大量得点で前年に続いてNTT西日本を破る。昨年準優勝のHonda熊本は、金属バット時代の記録・8本に迫る1試合6本塁打で鷺宮製作所をねじ伏せた。

 だが、トーナメント表の右半分は一転、接戦が続く。特に印象深いのは、第4日の第2試合、ヤマハとNTT東日本の一戦だ。NTT東日本は大会通算71勝、ヤマハは55勝と、一回戦で通算50勝以上のチームが激突するのは極めて珍しい。第4日の第1試合では日本通運が通算50勝に到達していたが、それが史上8番目。そのうち2チームは休部しており、そもそも50勝以上しているチームが少ないし、そういう強豪ともなると、2007年以降は特定シードを利用してきたから、一回戦で当たることはまずない。

 その強豪対決の白熱は、実に興味深かった。ヤマハが3回表に川邉健司のソロ本塁打で先制すれば、NTT東日本は7回裏に保坂淳介が逆転の2ラン。得点はいずれも、九番・捕手の一発なのだ。しかも、保坂は東京二次予選では11打数無安打で、平野 宏監督が「打撃には目を瞑っている。代打も考えた」という打席での一発である。昭和の野球ファンなら、「意外性男」という言葉を思い出すかもしれない。

 捕手の頭脳がせめぎ合った得点経過と言える。川邉の一発は、「僕が絡まった。川邉さんの引き出しの多さから、簡単にいったら打たれると、裏の裏をかいたつもり」で、保坂がインハイのストレートを要求した結果。「二死走者なしだから、ヒットはOKと素直に外でよかったのに……」と、保坂は悔やむ。だが、今度は、百戦錬磨ゆえにヤマハの川邉が惑う。二死からヒットで走者を許し、こう考えた。

「NTT東日本は、2017年に優勝した時のように、どこかのタイミングで必ず足を使ってくる」

 それは、間違いではなかった。事実、カウント1ボール1ストライクからの3球目、一塁走者の伊東嵩基がスタート。だが、サインではない。ノーサインの試合を理想とするNTT東日本の走者は、自らが高度な判断をする。だから、ここで川邉がストレートを要求したのは、むしろ二盗阻止にはしてやったりだった。

 打席の保坂も、伊東のスタートは目に入っていた。それでも、イニングとアウトカウント、そして、4安打に抑えられているヤマハの先発・佐藤 廉の調子から「長打を狙う。それには、浮いた球を叩く。精度のいい低目の変化球には手を出さない」と決めていた。つまり、走者には関係なく、浮いた真っ直ぐなら逃さない。その割り切りが、逆転2ランとしてレフトスタンドに飛び込んだ。保坂は主将も担っている。

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3回表二死から、ヤマハの川邉健司が先制ソロ本塁打を放って生還。NTT東日本の保坂淳介捕手は、川邉の表情を見上げている(左の写真)。

7回裏二死一塁から、NTT東日本の保坂が逆転2ランを放ってホームへ。ヤマハの川邉捕手は、保坂が踏んだ本塁に目を落とす(右の写真)。【写真=松橋隆樹】

 

「捕手としては、ゼロで抑えるのが一番ですけど、取られた点を自分のバットで取り返した経験はあまりない。これはこれで嬉しいです」

 NTT東日本が50勝超の対戦を制した翌日には、ミキハウス、北海道ガスが大会初勝利。北海道ガスは、通算82勝で歴代2位、今大会の有力な優勝候補・東芝を破っており、清水隆一監督でさえ「こんなことがあっていいのかな」というジャイアント・キリングだから価値がある。勝ち残りには名門あり、新鋭あり。一回戦を終えた大会は、第6日の第2試合から二回戦に入った。すでに連覇を目指す東京ガスとJR東日本の東京勢が、ベスト8に進出している。

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東芝を倒して都市対抗初勝利を挙げ、スタンドの声援に応える北海道ガスの選手たち。

【写真=藤岡雅樹】

【文=楊 順行】※次号は7月31日にリリースします。

 

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紙版(左)、電子版(右)とも、どうぞよろしくお願い致します。