JABA

JABA

メニュー

トピック TOPICS

【GRAND SLAM PREMIUM 179】9年ぶり12回目の都市対抗優勝を成し遂げたENEOS・大久保秀昭監督インタビュー[前編]

bnr_grandslam_cmyk.jpeg (218 KB)

2022年のENEOSは強かった。第93回都市対抗野球大会で9年ぶり12回目の優勝を飾ると、

第47回社会人野球日本選手権大会でもベスト4。都市対抗の決勝では4点のビハインドを引っくり返し、

日本選手権は2試合が延長タイブレーク勝利と、

「簡単には負けない」力は、夏・秋・夏と連覇した2012~13年を思い出させる。

そんなチームを築いた大久保秀昭監督に、

2022年の振り返りと2023年に向けたビジョンを2回に分けて語ってもらった。

GSP179-1.jpg (526 KB)

優勝を決めて号泣する主将の川口 凌(左)を、笑顔で労う大久保秀昭監督(右)。【写真=藤岡雅樹】

 

――今年1月14日にリリースした『週刊グランドスラム130』では、「大久保監督はJX-ENEOSを率いた2008年、そして2017年秋の慶應義塾大と、いずれも就任から3年目で優勝している」という主旨でまとめましたが、現実になるとは……。

大久保 書いてもらいましたねぇ。就任当時は、4年も都市対抗本大会に出られず、正直言って神奈川の企業3チーム中3番目の実力。ですが、選手には「3年以内に優勝だ」と所信表明したんです。そこから2020年には5年ぶりの都市対抗出場、2021年はベスト8と、戦力が整いつつあって迎えたのが2022年でした。手応えですか。例えば、2012~13年のチームと比較すると、宮澤健太郎、池邉啓二、山岡 剛らがいて、野手のレベルは当時のほうが成熟していたかな。ピッチャーでは大城基志、三上朋也は先発も完投もロングリリーフもできる。北原郷大は中継ぎもショート・リリーフもこなしました。その点、今季の柏原史陽、関根智輝、加藤三範は、完投はほぼありません。その代わりにオールマイティで、3人で3イニングスずつ、毎試合でも投げられる。ほかにもリリーフで力を発揮したり、1回なら任せられるピッチャーがいて、10年前とは野球が変わり、投手の起用パターンも変化しました。

――今になって思えば、あれが転機という試合はありましたか。

大久保 西関東二次予選の東芝戦ですかね。今年は、東芝の吉村貢司郞君(2023年から東京ヤクルト)を攻略することをテーマにやってきました。社会人で一、二を争う吉村君を打てれば、全国でも通用するという尺度になります。その試合は、一時0対4とリードされながら、目論見通り吉村君を打って5対5に追いついたんです。負けていても、ベンチには「ひとり出れば何とかなる」や「まだいける」という空気があり、最終的には負けたんですが、年初からの取り組みが実を結んだと感じた試合です。

 

GSP179-2.jpg (959 KB)

都市対抗準決勝では、2対2の9回裏一死一塁から柏木秀文が強攻して二塁打を放ち(左)、サヨナラ勝ちを呼んだ。

一方、日本選手権準決勝では0対0の9回表一死二塁で柏木に送りバントさせたものの勝ち越せず、その裏にサヨナラ負けした。

【写真=松橋隆樹】

 

――都市対抗の采配も見事でした。NTT東日本との準決勝では同点の9回裏一死一塁で、打席には柏木秀文。バントするつもりだった本人に「ヒーローになってこい!」と強攻させ、サヨナラ勝ちにつながる二塁打です。あるいはJR西日本との準々決勝で、それまで抑えだった柏原を先発させたのは「閃きです」とのお話でした。ですが、どちらも決して閃きではないのでは?

大久保 閃きでは采配しませんよ(笑)。リモート取材で説明も難しいですし、話したくない機微もあるのでそう答えましたが、相手の投手、次に出てきそうな選手を分析し、自チームの状態とゲーム・プラン、そこまでの流れと状況、選手の性格と能力、ありとあらゆる要素を入力するとこうなる、という答えが采配です。入力した要素の誤差が少ないほど、その答えには確信が持てる。そこに至るプロセスを逆算すれば勝った理由、負けなかった理由をちゃんと分析できますし、要素として誤差なく入力できるだけの選手が増えてきました。ただ、柏木については、日本選手権でも似たような場面があったんです。トヨタ自動車との準決勝、0対0の9回表一死一塁。今度は送りバントを選択して二死二塁、ですが得点には結びつかず、その裏でサヨナラ負けでした。表と裏の違いはありますが、あそこで打たせておけば……という反省もあります。もっとも日本選手権では、延長タイブレーク勝ちが2試合と、勝負どころで力を発揮しました。勝てない時は、それができていなかったんです。

――そして、2022年度は社会人ベストナインに5名が選出されました。

大久保 これも、やはり1年目のミーティングで、「社会人ベストナインに3人絡んでくるようだと、優勝争いをしていることになる」と位置づけたんです。チームの成績に直結する賞ですからね。2013年に都市対抗を連覇して以降、2015年に山田敏貴がもらっているだけで、柏木や山﨑 錬にしても今回が初受賞なのは、それだけチームが勝っていなかったということです。柏原も含め、負けている期間が長かったですから(笑)。川口 凌も入社してから勝てずにどん底を味わい、難しい状況なのに自らキャプテンに立候補した。宮澤のようなタイプで、長くチームを背負ってくれるはずです。その4人と、怖いもの知らずの度会隆輝。彼は都市対抗前に「打率5割、ホームランは7本打ちます」と宣言したんですよ。「おっ、それだけ打ってくれたら優勝するわ」と答えましたが、それに匹敵する働きをしてくれました。

――2022年は、都市対抗で優勝した2008年の橋戸賞、そして、社会人ベストナインの田澤純一が復帰するというニュースもありました。

大久保 実は、日本選手権直近のオープン戦でケガをしまして、万全ではなかったんです。田澤本人が日本選手権を最後にするつもりなら多少の無理をしても使っていましたが、「まだ続けたい」と。だから、日本選手権ではあえて登板させませんでした。彼の加入によって、戦力が劇的にアップするか、バリバリに投げてくれるかと言うと、そうとは限りません。ですが、ボストン・レッドソックスでワールド・チャンピオンを経験した男ですから、それなりの有終の舞台を提供してやりたい。彼がメジャー・リーグに行く時、たまたま関わった私の勝手な思いかもしれませんけど、あれだけの選手ですから、何らかの財産をチームに還元してくれるんじゃないですか。

【取材・文=楊 順行】

※次号へ続く

 

グランドスラム60は好評発売中です!!

GSPPR.jpg (651 KB)

紙版(左)、電子版(右)とも、どうぞよろしくお願い致します。