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【GAME020】2002年第29回社会人野球日本選手権大会決勝/日本生命×ホンダ
2002年から、社会人野球は使用するバットを24年ぶりに金属から木製に戻した。すると、当たり前だった空中戦は激減し、投手力が大きなカギを握るようになる。また、バブル経済の崩壊に始まった経済不況による企業チームの減少により、この年の都市対抗は出場チームを32から28に絞って開催することになる。それが原因ではないだろうが、名門の日石三菱(現・ENEOS)、東芝、日本生命が予選で敗退。この年限りでの活動休止を発表していた藤沢市・いすゞ自動車の優勝には感動されられたが、大会自体は今ひとつ盛り上がりを欠いた。
その舞台に立てなかった名門のうち日本生命は、13年ぶりの予選敗退に危機感を募らせる。12名が補強される中で、残された選手は寮に泊まり込み、3週間にわたって早朝から夜遅くまで猛練習。そこで力をつけた新戦力も活躍し、日本選手権近畿二次予選は勝ち抜くことができた。
第29回社会人野球日本選手権大会の開幕は10月12日だったが、都市対抗決勝は9月3日で、二大大会の開催間隔は1か月余りだった。初日の第3試合に登場した日本生命は、夏の猛練習で頭角を現した2年目の佐藤 充(元・東北楽天)が先発。都市対抗でベスト4に進出したNTT東日本の打線を6回途中まで3安打無失点に抑え、ベテランの土井善和につないで1対0で勝ち切る。
新日本製鉄八幡との二回戦にも佐藤は先発し、5回まで3安打1失点の力投。打線も長打をしっかりと得点に結びつけ、5対1で快勝する。都市対抗では辻 太一、竹間容祐(ともに現・日本生命コーチ)ら5名が補強されて4強入りした松下電器(現・パナソニック)との準々決勝も、3試合連続先発の佐藤から林 卓史、土井とつないで3点に抑え、打線は13安打で5点を奪って勝ち上がる。
フル回転の活躍で最高殊勲選手賞に選ばれた佐藤 充(左)やリードオフを務めた及川 徹(右)ら、都市対抗で補強されなかった若手が大きく成長した。
さらに、準決勝では東芝と投手戦を展開。ルーキーの池田宏之が4回まで4安打の好投を見せると、バトンを受けた辻も7回まで1安打の熱投を見せる。何とか援護したい打線は、6回表に鷲北 剛の二塁打から一死三塁とし、石田拓郎がスリーバント・スクイズを成功させて先制。さらに、中軸の下野敦司と天野義彦(現・山岸ロジスターズ監督)の連打で2点目を挙げる。東芝も、三番手の土井から9回に1点を返したものの、日本生命が逃げ切って決勝に駒を進める。
都市対抗予選敗退から一気にダイヤモンド旗を手中に
頂上決戦は、やはり都市対抗出場を逃したホンダとの対戦となる。日本生命は、4試合目の先発を任された佐藤が初回を無難に立ち上がると、その裏にリードオフの及川 徹が四球を選び、すかさず二盗を成功させる。そこから二死満塁とし、六番の竹間がレフト前に2点タイムリー。さらに、下山真二(現・オリックススカウト)の中越え二塁打で3点目を奪う。
このあとは1点を取り合い、6回からは二番手に辻を投入。ホンダの反撃を許さず、9回は土井が締めて12年ぶり2回目のダイヤモンド旗を手中に収める。就任2年目で夏は悔しさを噛み締めた岡 隆博監督は、選手たちが歓喜の輪を作る様子を、目を潤ませて眺めていた。
若手の勢いとベテランの維持が融合し、日本生命は12年ぶり2回目の優勝を成し遂げた。
「完投できる投手はいなかったが、何とか継投で相手に流れを渡さず、バッテリーを中心に粘り勝つ試合運びはできたかと思う。決勝でも、相手に傾きかけた流れを辻が止めてくれたように、一人ひとりが自分の役割をしっかりと果たしてくれた」
都市対抗予選で敗れた際、12名の補強は4年目以上の中堅・ベテランばかり。その現実を突きつけられ、若手の目の色が変わった。東京ドームでの戦いを終えて大阪に戻ってきた主将の竹間も、チームの雰囲気が変わっているのを肌で感じたという。竹間自身が新人の多井清人にスタメンの座を奪われるも、その多井は一回戦で1打席目の走塁中に負傷。交代出場して2安打1打点をマークした竹間は、18打数9安打5打点で打撃賞に輝いた。最高殊勲選手賞には佐藤が選出され、若手の勢いとベテランの意地が見事に融合した優勝という印象だった。
不思議なことに、翌年以降も日産自動車、JFE西日本、松下電器と、都市対抗出場を逃したチームが日本選手権では頂点に立っている。