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【GRAND SLAM PREMIUM 194】東京スポニチ大会連覇の東芝でロケットスタートしたルーキー

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 社会人野球シーズンの幕開けとなる第77回東京スポニチ大会は、東芝が昨年に続く連覇で史上最多12回目の優勝を果たした。昨年の優勝が、絶対的エースの吉村貢司郎(現・東京ヤクルト)を中心に達成したものなら、今回は実力派のルーキーたちがチームに勢いをもたらした。

 今季は投手3名、野手5名の大量採用だったが、2月の愛媛県松山キャンプで平馬 淳監督は「5人の野手は、スタメンに並ぶかもしれませんよ」と明言した。そして、神宮球場の開幕戦となったエイジェックとのリーグ戦第1戦では、一番セカンド・山田拓也(青山学院大出)、三番ファースト・齊藤大輝(法政大出)、四番ライト・光本将吾(帝京大出)、五番サード・下山悠介(慶應義塾大出)と、リードオフとクリーンアップにルーキーが並ぶ。

 この試合は下山の2打点と齊藤の1打点に、エース・藤村哲之の1失点完投で快勝すると、TDKとの第2戦は山田が2打点を挙げ、速球派右腕の神野竜速(神奈川大出)が2回を3安打1失点と、まずまずの投球を見せる。そして、2勝同士の王子と準決勝進出をかけて激突した第3戦には、サウスポーの北村智紀(青山学院大出)が先発。2回裏に4点の援護をもらうと、毎回ヒットを打たれながらも要所を締め、8安打を許したものの1失点完投で白星を手にする。「代えようか、いや我慢だ、という葛藤が何度あったか」と平馬監督は笑顔で振り返るが、この粘りが北村の持ち味なのだ。

 

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東京スポニチ大会リーグ戦第3戦で、王子を相手に1失点完投勝利をマークした北村智紀。【写真=藤岡雅樹】

 

 北村は、龍谷大平安高3年夏に背番号10で甲子園に出場した。エースの小寺智也(現・日本製紙石巻)が大事な試合に先発する一方、北村はいつ、どんな役割でも結果を残せる投球術を身につける。青山学院大では1年春からリーグ戦のマウンドに登り、コツコツと経験を積む。そうして、3年秋から投手陣の中心的存在として実績を残した。だから、初登板が勝てば準決勝、負ければリーグ戦敗退という緊張感ある試合でも、「社会人の本当の怖さをまだ知りませんし、実力のある先輩も控えている。行けるところまで全力で」と、自分の持てる力を出し切ることができた。

「先発投手は第1戦の藤村(哲之)さん、第2戦の粂(直輝)さんは決まっていて、3試合目はおまえもあるよ、という中で、オープン戦を含めて現時点でベストな調整ができた。高校時代は二、三番手だったのが、大学2年の秋くらいに東芝から声をかけていただき、もっといい投手にならなければと強いモチベーションで練習にも取り組んできた。名実ともにトップクラスのチームの一員になり、スタートで結果を残せたのは嬉しかったですね」

 北村の好投もあって進出した準決勝は、SUBARUと息詰まる投手戦。11のままタイブレークの延長に突入すると、10回表二死一、二塁から下山がライトへ勝ち越し3ラン本塁打を放つ。続く松本幸一郎もソロ弾を叩き込み、その裏を藤村が1点に凌ぐ。そして、Hondaとの決勝で四番に抜擢された下山は、4回裏に内野安打で出塁し、柴原健介の決勝3ラン本塁打を呼び込む。

 

2年でプロを目指す謙虚で努力家のスラッガー

 

 小さな頃からプロ野球選手を目指していたという下山は、高校進学の際に「甲子園常連のような強豪校で、みっちり鍛えてプロへ」と考えていた。その中で慶應義塾高を勧められ、「両親に、野球だけではダメだと説得されて(笑)」受験し、首尾よく合格。さらに、3年春夏とも甲子園の土を踏み、夏は会心のアーチも架けた。当然のように慶応義塾大でもプレーを続けたが、「大学では、自分の力が通用とは思えなかった」という。

 それでも、1年秋にはベストナイン三塁手に選出され、神宮大会で優勝すると、当時の大久保秀昭監督(現・ENEOS監督)からこう言われた。

「プロを目指すくらいの気持ちで取り組まなければ、4年間をやり抜けないぞ」

 また、4年生だった郡司裕也(現・中日)と柳町 達(現・福岡ソフトバンク)がプロ入りする姿を見て、「もう一度、プロを目指そう」とレベルアップに励んだ。4年間でリーグ戦通算82安打をマークするなど活躍し、プロ志望届を提出したもののドラフト指名はなく、平馬監督の熱心な誘いに東芝への入社を決意する。

 再びドラフト指名が解禁となる2年後までに、プロからも認められる選手に成熟すると目標は明確なだけに、練習に取り組む姿勢でも一目置かれている。東京スポニチ大会でも初打席で先制犠飛、次の打席も中前安打を弾き返したが、そこから8打数ヒットなし。リーグ戦3試合は9打数1安打と苦しむも、準決勝、決勝できっちりと巻き返した。

「大学の時からオープン戦もしているので、社会人のレベルの高さに驚くことはありません。ただ、実際に同じ舞台でプレーして感じたのは、パフォーマンスの再現性の高さですね。投手はどの球種でもコーナーいっぱいに投げ込んできますし、打者はそのボールでも簡単にアウトにはならない。活躍している選手は、精度の高い技術が確立されています。その洗練された野球の中で、結果を残していかなければいけないと感じています」

 

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下山悠介は、SUBARUとの準決勝でタイブレークの10回表二死一、二塁から勝ち越し3ラン本塁打を放った。【写真=松橋隆樹】

 

 ただ、下山が初舞台で見せた勝負強さも素晴らしい。

「誰もが印象に残る場面が巡ってきたり、そこで結果を残すことができたり……。指導者の方々やチームメイトとの出会いもそうですが、野球人としては環境や人との巡り合わせに恵まれています」

 そう謙虚に語る下山は2年連続優勝に貢献し、北村とともに新人賞に選出された。北村は、初登板を経た現在の気持ちをこう語る。

「下位打線でも簡単には打ち取れないのが、大学との一番の違いです。でも、そういう強打者を抑えられるように成長していくのが目標であり、投手をやっている醍醐味。相手打者をよく観察して投球の感性を磨き、調子がよくない時でも安定したパフォーマンスを発揮できるノウハウを身につけたいです」

 頼もしいニューフェイスたちも加わった東芝は、今季こそ最高のスタートダッシュを黒獅子旗につなげたい。

【文=横尾弘一】

 

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