都市対抗で4回、日本選手権でも3回の優勝を誇る名門･日本生命が、最近は苦戦を強いられているという印象だ。2015年には都市対抗と日本選手権を連覇したが、その後、都市対抗では2019年のベスト8以外に白星を挙げていない。それどころか、2018、21、22年と近畿二次予選で敗退している。また、日本選手権では2017、19年と準優勝したものの、コロナ禍に勢いを失ったイメージがある。

　今季も長野県知事旗大会はリーグ戦3位、京都大会は同2位、北海道大会も同3位で準決勝には進めず、都市対抗近畿二次予選は何とか第五代表に滑り込むも、東京ドームでは一回戦でJR東日本東北に4×7で敗れた。では、戦力が揃っていないのかと言えば、毎年、豊かな将来性を備えた選手が入社している。梶田茂生監督は、「若い選手をいかに“その気”にさせられるか」という表現で、チームの課題を挙げた。

10月後半の強化練習期間には、野手陣が徹底してバットを振り込んだ。

　日本一を手にするような選手は、心身ともにタフだ。30代になってもパフォーマンスは落ちず、長くチームの主力に君臨する。もちろん、監督はそんな選手に信頼を寄せ、安定した戦いを続けようとする。2015年に二大大会を連覇した日本生命も例外ではなく、当時のレギュラーは息が長かった。それから8年が経ち、現役を続けているのは原田拓実と上西主起だけになったが、その間に若手の経験値が上がり切らなかったというのが現状だろう。

　そうして、優勝メンバーがユニフォームを脱いでいくと、次第に勝ち方を知る選手が少なくなり、都市対抗予選のようなシビれる戦いで勝負強さを発揮できなくなる。日本一になったチームはどこでも、そんな世代交代の難しさに直面するわけで、監督やコーチは若手が自分たちの手で栄光をつかめるよう鍛えていく。日本生命もちょうど、そのプロセスにあるということ。その中でキーワードになるのが、梶田監督が言う“その気”なのだ。

「大半のチームの目標は日本一で、選手たちはそこを目指して本気でプレーしています。ただ、私自身の経験に照らせば、その本気の中にも段階があって、『日本一になりたい』と『日本一になるんだ』では本気度が違う。その最上級にある『日本一になるんだ』まで、選手たちの気持ちを高めていきたいですね」

　そのためには、練習で激しく競争させ、オープン戦では少しでも多くの実戦経験を積ませたい。そのオープン戦は経験を重視するのか、勝利という結果にこだわるのか。梶田監督は就任した昨年から試行錯誤を繰り返しながら、一人ひとりのスキルアップの先に、全体の底上げを見据えている。

　日本選手権近畿最終予選でフル回転した5年目の右腕･山本隆広は、ワンランク上のステージに這い上がったひとりだ。キレ味抜群の速球を投げ込むものの、なかなか安定感を高めることができず、仕事場がリリーフに限定されていた。だが、梶田監督から「右打者のインコースを突く制球力を徹底して磨けば、もっと投球の幅は広がるはず」とアドバイスを受け、そのテーマに特化した投げ込みとスタミナを養うトレーニングに取り組んだ。その結果、日本選手権近畿最終予選では先発で7回、最終回のリリーフ、8回を無失点と3連投で代表権獲得に貢献。もともと強気のマウンドさばきが持ち味だけに、エースの最有力候補として本大会に臨む。

強気のマウンドさばきが魅力の山本隆広は、都市対抗後からエースへのステップアップを見せている。

　また、10月後半の強化練習期間には、野手は徹底してバットを振り込んだ。午前中にシートノックなど守備に関する練習に専念すると、午後はフリー打撃、タイミングを変えたり、ワンバウンドを打つなど対応力アップも睨んだティー打撃と、日が暮れてもバットを振り続ける。ルーキーでセカンドの定位置を確保している山田健太も、春先に比べて下半身がより安定し、力強い回転で鋭い打球を弾き返している。

　このように、ポテンシャルに恵まれた選手たちが、個々の力をしっかり高めてきたという印象で、あとは梶田監督が語った“その気”になれるかどうかが大きなカギを握っていると感じられた。10月26日のドラフト会議で、3年目の左腕･又木鉄平が巨人から5位指名されたことも、選手たちのモチベーションを高めるだろう。本拠地を大阪南部の貝塚市に移転してから、早いもので7年目。栄えある4回目のダイヤモンド旗を、新たなホームに持ち帰ることができるか。名門･日本生命に戦いに注目したい。

【文＝横尾弘一】

※次回は11月7日（火）12:00にリリースします。

グランドスラム62は好評発売中です!!

紙版（左）、電子版（右）とも、どうぞよろしくお願い致します。