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【GRAND SLAM PREMIUM230】社会人ベストナインを手にしてユニフォームを脱いだ石井 元(Honda熊本)の物語

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 2023年度の社会人野球表彰の授与式が、12月12日に東京都内で開催された。表彰選手は以下の通りだ。

◆2023年度社会人野球表彰ベストナイン

投 手/嘉陽宗一郎(トヨタ自動車)

捕 手/城野 達哉(西濃運輸)

一塁手/丸山 壮史(ENEOS)

二塁手/石井  元(Honda熊本)

三塁手/北村 祥治(トヨタ自動車)

遊撃手/北野 貴昭(西濃運輸)

外野手/山本 卓弥(Honda熊本)

外野手/網谷 圭将(ヤマハ)

外野手/清水 聖也(大阪ガス)

指名打者/三井健右(大阪ガス)

※2021年以来2回目の三井のほかは初受賞

 

◆2023年度社会人野球表彰個人記録表彰

首位打者賞/三井 健右(大阪ガス)=打率.489

最多本塁打賞/城野 達哉(西濃運輸)=6本塁打

最多打点賞/山本 卓弥(Honda熊本)=22打点

最多勝利投手賞/片山 雄貴(Honda熊本)=6勝1敗

最優秀防御率賞/與座 健人(パナソニック)=防御率1.33

※片山は昨年に続き2回目の受賞、ほかは初受賞

 

 このうち、石井、北村、片山、與座の4人は2016年の同期入社組である。

「もともと、30歳で区切りをつけようと決めていました」

 そう話すのは、今季限りで現役を引退する石井だ。これから脂が乗り切ろうという年代で、第三者からすると惜しい気もするが、「最後に、一番獲りたかった賞を獲れた。迷いはありません」と、石井本人は清々しい。履正社高3年春の甲子園でベスト4入りし、明大3年時には一塁手でベストナインを獲得。Honda鈴鹿でも、入社した2016年の都市対抗東海二次予選では3ラン本塁打を放つなど、四番を任されることもあった。だが、「三振王と呼ばれてました」と笑うように、成績は徐々に下降線。2020年からは、Honda熊本に転籍した。

「先に転籍していた片山からは『無茶苦茶いいチーム』と聞きましたが、どこでも馴染める片山はともかく、自分はどうかな……と思っていたんです。だけど、みんな性格的に明るいし、つられて僕も性格が変わりました」

 ポジションも、Honda鈴鹿での一塁や三塁から二塁に変わった。すると、「もともとイップス気味で、サードからの送球が不安だったんです。だけど、ファーストまでの距離が近いセカンドなら何とかなるかと、守備のストレスがなくなりました」という。

 心機一転とはこのことか。ストレスの低減が、打撃にもいい影響を及ぼす。当時の熊丸武志コーチからは、「高目の球を振れ」と指示される。バットが下から出る悪癖があり、ワンバウンドのボール球でも手を出してしまっていたからだ。そこから、打撃練習でもオープン戦でも、顔のあたりにくるボール球にさえ意図的に手を出した。すると、「劇的に変わったんです」と振り返る。低目には手を出さなくなり、その分、甘い高目をとらえる確率が上がる。九州地区のチームには石井の情報が少ないこともあり、1年目からセカンドに定着した。

 

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11月の日本選手権二回戦では、1点を追う2回表に同点のソロ本塁打をレフトスタンドに叩き込む。【写真=松橋隆樹】

 

 Honda熊本で2年目の2021年には、同じ転籍組の片山とともに都市対抗準優勝に貢献し、今季は日本選手権でも準優勝。記憶に鮮やかなのは、「4回、泣きました(笑)」というトヨタ自動車との二回戦だ。トヨタ自動車に1点を先制されたあと、2回表に自らのホームランで追いつき、まず涙が出た。2点を追う6回表には、山本卓の2ラン本塁打で追いついて2回目の涙。さらに1点差で迎えた9回表、先頭の古寺宏輝が佐竹功年からまたも同点の一発をぶち込んで3回目。タイブレークの11回表には、自らのダメ押し打などで3点を追加し、都市対抗覇者を破って4回目。試合中のことだから、「泣きました」とは言ってもジ~ンときた程度だろうが、「みんな、負けたら自分にとって最後の試合になることを知っているわけで、同点に追いつく度に『まだ野球をさせてくれるのか』と感慨深かった」と振り返る。

 取材中にたまたま通りがかった片山に、この試合について水を向けると、「苦しい試合でしたが、みんなが『石井に花を持たせてやろう』と思ったんじゃないですか」と笑い、石井は「自分が打ったことはさておき、客観的に見ても2023年の社会人野球でベストゲームと言ってもいいでしょう」と胸を張る。もともと社業に本腰を入れたい思いが強く、今後は鈴鹿で社業の経験を積む予定だ。

 プロで38年ぶりの日本一に輝いた阪神の坂本誠志郎とは高校、大学と同期だった。

「おめでとう、と連絡したら、『飯でも行こうや』と言ってくれました」

 心残りがあるとすれば、日本一にあと一歩届かなかったことだろう。

「Honda熊本は、全国でも勝ち切れるチーム。来年こそ」

 その夢を、チームメイトに託す。

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社会人野球表彰式の前に、ユニフォーム姿の片山雄貴、山本卓弥(右から)とおどけて記念撮影。【写真=五十嵐美弥】

【文=楊 順行】

 

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