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どうなる今年の社会人野球 坂口裕之アスリート委員会委員長に聞く  社会人野球Express40

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=都市対抗で優勝したENEOS(左)と日本選手権を制したトヨタ自動車(右)

都市対抗は打力、日本選手権は投手力が光った2022年

 昨年は都市対抗でENEOSが歴代最多を更新する12回目の優勝を成し遂げ、日本選手権ではトヨタ自動車が現存チームでは最多の6回目の頂点に立った。2023年の社会人野球はどうなるのか。日本野球連盟アスリート委員会の坂口裕之委員長に展望を聞いた。【聞き手:毎日新聞社野球委員会・安田光高】

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=日本野球連盟アスリート委員会の坂口裕之委員長

――2022年の社会人野球界はどんな1年でしたか。

 ◆新型コロナウイルスの影響がありましたが、都市対抗を夏に開催でき、日本選手権を秋に開催できました。入場制限もなく、応援団も入りました。久しぶりに盛り上がったのというのが率直な感想です。都市対抗では特にホームランの数が過去10年で最多の49本となりました。かなり精度の高い、魅力のある野球を繰り広げた印象があります。ホームランが多くなったのは、周りの後押しもあったと思います。コロナの影響で環境が厳しく、会社も野球部を運営する側も大変だったと思います。その中で後押ししてくれたことが選手のパフォーマンスを上げてくれました。応援や会社のサポートというのが感じられた1年でした。

――アーチ合戦だった都市対抗。日本選手権はどう見ましたか。

◆非常に「打力」が目立った都市対抗に対して「投手力」が目立ったのが日本選手権の印象です。ガンガン打つ都市対抗と、継投策で多くの投手を使い、僅差のゲームを展開した日本選手権でした。1年間通じて投打どちらも目立ち、バランスが取れていたと思います。まさにJABAのスローガン「JABA FAIR AND SQUARE 正々堂々と。 」です。都市対抗では投手と打者が力と力の勝負を挑み、攻撃陣があれだけのホームランを打ちました。一球一打で試合を決す場面が多く見られ、大会が盛り上がりました。一方日本選手権では投手の活躍が目立ちました。その中で優勝したトヨタ自動車の投手陣は、防御率が0点台と素晴らしかった。正々堂々と投手が打者に立ち向かって抑えた結果です。投手、野手どちらも、良さを存分に出してくれた昨シーズンだったと思います。

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=都市対抗決勝で勝ち越し本塁打を放ったENEOSの小豆澤選手

――トヨタ自動車の投手陣の安定感は抜群でした。

◆エースだけではなく、複数の投手が成果を挙げるのはなかなか難しいものです。起用する側にとってはエースを毎試合でも登板させたいと考えますが、トヨタ自動車は、前の試合で好投した投手を翌日はベンチに入れませんでした。通常ですとベンチに入れたいものです。このような起用法は社会人野球でこれまであまり見られませんでした。トーナメント戦にもかかわらず、プロ野球のペナントレースのような戦い方で、決勝までの5試合を勝ち抜くために必要な選手をその日に登録していくといった、変化が感じられました。

――信頼できる投手が複数いないとできません。全体的な底上げができているのでしょうか。

◆これはコロナの影響があると思います。チームで体調管理などを行っていますが、選手が感染する事態も起こり得ます。チーム力の底上げが必要だったと思います。ENEOSも都市対抗では柏原投手が5試合全てに登板しましたが、加藤投手や関根投手など複数の投手が結果を残しました。信頼できる投手が1人だけではなく、3人、4人もいるわけです。トヨタ自動車も嘉陽投手がMVPを獲りましたが、準決勝では佐竹投手が先発しました。ベテランから若い選手まで活躍していることが、1人に頼らずにチーム全体として戦っていると感じさせました。

――今後のトレンドになりそうですね。

 ◆エース1人で勝てる、主軸1人で勝てる、というようなことは難しくなりました。特に投手の人員がしっかりと育ってきているところが上位に進出しています。プロ野球の日本シリーズでも先発が5回を投げず、残りのイニングを1イニングずつ救援が投げていました。高校野球も今は球数制限があるので、1人だけでは勝てません。高校や社会人、プロと、どのカテゴリーもかつては先発完投だったと思います。それが分業制になってきています。今は各チームとも投手の球数や体調管理をしっかり見ながらやっていますので、途中から出場する選手たちが良いパフォーマンスを発揮します。チームに何人も145キロ、150キロの球速を示す投手がいます。信頼できる投手を複数持っているチームは早めに継投することもできます。そこで抑えられるチーム、または仕留められるチームが勝利に近づくわけですから、昨年はそのあたりに大きな変化を感じました。多くの選手を起用する機会が増えてきていますので采配としてはかなり高度になってきているのではないでしょうか。チームを強化していく上で、スタッフが選手に対して明確に指示を出し信頼関係を構築することが成果に結びついていることを感じました。

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=日本選手権決勝で好投したトヨタ自動車の嘉陽投手

――都市対抗、日本選手権ともに関東のチームの上位進出が目立ちます。

◆関東勢の上位進出が長く続いています。昨年の都市対抗前の記者会見で「打倒、関東が出てくることに期待」と話しました。日本選手権でトヨタ自動車が勝ったのはいいことです。そのほかの地域のチームがどう上がってくるか。一昨年、都市対抗で優勝した東京ガスは2年目の選手が優勝を経験しました。それがチームの成長につながり、昨年も決勝まで進みました。ほかの地域も大会を通じて見たらどこが勝ってもおかしくないレベルにきています。そういう意味では、他の地域がどれだけ成果を挙げてくるのか、今年の楽しみではありますね。

――Honda熊本が一昨年の都市対抗で準優勝。かみ合えば、チャンスはありそうです。

◆Honda熊本のように連続で出場するチームは経験を積んだことがすごく大きいですし、その中で得られたことを次に生かすこともできますので成長を感じられます。JR東日本東北は2年前の都市対抗で、前年優勝のHondaを破るなどして小野賞を獲得。自信をつけて昨年は初戦に近畿第1代表のNTT西日本にコールド勝ちしました。Honda熊本も1試合で6本塁打を放つなどすごく成長しています。そういうチームが確実に成長し、全体のレベルが上がってきていると感じます。全体的に送りバントをしなくなり、1点を取る野球ではなく、攻撃型の野球という印象を受けます。

「若手の勢いとベテランの安心感がかみ合うか」

――2023年の展望をお願いします。

 ◆まずは全体で言うと、地域差がなくなってきていますので、そこで勝ち上がるために何をやってくるか楽しみです。もう一つは若い力。U-23ワールドカップで社会人の日本代表は世界一になりました。この若い選手たちが経験を生かしながら、社会人に良い風を吹かせてくれないか期待しています。またベテランにも注目です。昨年の社会人野球表彰では、10年目でベストナインを初受賞した選手がいました。東京ガスの地引選手やENEOSの山﨑選手で、11年目で初受賞したENEOSの柏木選手もいます。こういったベテランが元気なのが社会人の良さです。10年以上の選手が若い選手に負けられないと力を見せてくれています。去年、成果を挙げた選手がさらに成長し、力を発揮してくれたら社会人野球がもっと面白くなります。若い力はチームに勢いを与えます。ベテランはチームに安心感を与えます。ここがマッチしないとチーム力が上がらないし、全国で勝つには両者がかみ合うことが必要だと思います。