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シリーズ監督論「教え、教えられ」 ハナマウイ・本西厚博さん 社会人野球NOW vol.35
第48回全日本クラブ野球選手権大会が8月31日、栃木、群馬両県で開幕します。全国の予選を勝ち抜いた16チームが出場し、優勝チームには秋の第49回社会人野球日本選手権の出場権が与えられます。社会人野球の指導者に聞くシリーズ監督論「教え、教えられ」。今回は、関東地区代表として2大会ぶり3回目の全日本クラブ野球選手権出場となる千葉県富里市のクラブチーム「ハナマウイ」の本西厚博監督(62)です。プロ野球界で選手、指導者として活躍し、解説者を経て、韓国のプロ野球界、国内独立リーグなど多岐にわたるフィールドで指導されてきました。ハナマウイは2019年の創部から率いて、20年の第91回都市対抗野球大会にも出場されています。選手と向き合い、能力を引き出す上で、大事にされていることをインタビューしました。【聞き手 毎日新聞社野球委員会・藤野智成】
=指導論について熱く語るハナマウイの本西厚博監督
「君が諦めても、俺は諦めない」
――全日本クラブ野球選手権の開幕が迫りました。
◆本西監督 全日本クラブ野球選手権は21年、22年のベスト4が最高です。全国のクラブチームの力も年々上がっています。連戦となるトーナメントを勝ち上がるためには、投手の枚数が必要だと感じてきました。ハナマウイは、東京都内で通所介護事業を展開する会社が母体のクラブチームです。選手の大半は週4、5日、勤務し、高齢者の送迎や体操、入浴、食事の介助などに取り組み、週末を中心に練習、試合をしています。勤務の都合上、特に平日だと、フルメンバーをそろえることが難しい時もあり、やりくりは大変です。社員とは別に、他の仕事をしながら休日に活動に参加する「クラブ生」も増やして、メンバーは40人を超えるぐらいです。今年は全日本クラブ野球選手権決勝の9月3日までのトーナメント4試合を勝ち抜けるように、公式戦を任せられる投手10人を作り上げました。
――選手を獲得する時、どこに注目しますか。
◆投手なら制球力です。ストライクが入らない投手は時間がかかります。まずは制球力。球威もあれば、満点ですね。打者は足の速さ、肩の強さですね。そういう意味では投手は肩が強いので、投手出身で足の速い選手は理想です。日本プロ野球名球会でも、王貞治さん、秋山幸二さん、石井琢朗さんら投手出身の選手が多く名を連ねています。性格面ももちろん重視します。厳しく言ってもはね返してくるな、とか、相手を見ながら声かけするようにしています。
――チーム作りの上では、野球への軸足の置き方で、クラブチームゆえの難しさはありませんか。
◆うちのメンバーで、このままクラブチームで終えようと思っている選手は少ないと思います。上昇志向が強く、同じベクトルを向いています。企業チームに入りたくて、漏れた選手もいます。ハナマウイで活躍することで、企業チーム、独立リーグから声が掛かり、移籍するチャンスが生まれます。実際に移籍しています。数年、うちのチームでプレーした選手が成長し、巣立つレールを敷いてあげる。そうすれば、どんどん新たな選手も入ってくると考えています。ひいては、野球人口も増えていくんじゃないかと思います。
――指導哲学を教えてください。
◆「なんで、できないんだ」とは、一度も言ったことがないと思います。選手にうまく伝わらなかった、選手がうまく吸収できなかった時に、「なぜ」を考えるのは指導者側にあると思います。一つの選択肢がその選手にとって合う場合もあれば、合わない場合もある。合わなければ、別の選択肢を提示してみる。その引き出しを指導者が持ち合わせているか、どうかということです。
同じ目線に立つことも大事です。同じ目線に立たないと、気持ちは伝わりません。言葉の使い方も大事です。難しい言葉を使おうとしすぎず、わかりやすく、簡単に伝える。自分で動けるのであれば、やってみせる。「こんな風にやってみたらどうか。違いがわかるか」と話してみる。いったん、改善に取り組めば、辛抱強く見守ることが大事です。一度うまくいったからと言って、すぐに定着するわけではありません。この継続が一番難しい。
継続するにはプラス思考でなくてはいけない。例えば、新たな打撃フォームを試している選手が、代打で出場し、三振したとします。それは「相手投手がよかった。打てる球が一球もなかった」と考えればいいんです。「レギュラーメンバーでも打てないのに、代打で打てるわけがない」と切り替えればいい。そこで迷って、元に戻してしまえば、またゼロからです。選手には「俺はしつこいよ。君が諦めても、俺は諦めないよ」と伝えます。監督が諦めてしまえば、選手にも伝わります。「監督がここまで必死なら……」と伝われば、信頼関係が生まれます。「信は力なり」が座右の銘です。
=全日本クラブ野球選手権での奮闘を誓うハナマウイの本西厚博監督
「ラストは自分で決めなさい」
――その考えは、これまでの指導者との出会いから生まれたものですか。
◆私はいい指導者に巡り合ってきました。私が社会人の三菱重工長崎からプロ野球の阪急に入団した時の監督が、亡くなられた上田利治さんでした。私の恩師です。オープン戦のある場面が記憶に残っています。走者のいる場面で代打に送り出した選手がバントをしました。上田さんは怒っていました。私は隣で様子を見ていましたが、上田さんは言葉では直接、何も言いませんでした。次の試合、再び同じ場面で代打にその選手を起用しました。打って戻ってきた選手に「おまえに期待しているのはそれなんだよ。積極的に打ってアウトになってもいいんだよ」と説明していました。私は真横でそれを聞いていて、「すげえ、監督だ」と思いました。
亡くなられた星野仙一さんも熱い人でした。星野さんが楽天の監督だった時に、私はコーチでした。星野さんは当初、選手をしかっていましたが、次第にコーチに問いただすようになりました。「どうなってんだ」と問われた時、星野さん相手に「すみません」は通用しません。星野さんは「すみません」でなく、答えを求めているんです。ですので、修正点を示して、「あす早めに来て練習します。こういう指導をします」と伝えれば、「頼むぞ」と言われます。大変勉強になりました。
――その後、韓国プロ野球のロッテ・ジャイアンツでもコーチをされました。
◆韓国の選手には技術を吸収しようというハングリーさを感じました。日本の選手は子供の時からそうですが、調子が悪くなったら教えてもらえる、というスタンスが多いように思います。韓国では、自分から次々と質問してきました。同じノック練習でも、選手からお願いしてきたのと、こちらからやらせているのでは、全く違ってきます。教えるっていうのは、一方通行になってしまう恐れがあります。だから今、選手には「聞きに来なかったら、教えないよ」と伝えています。ノックでも選手がお願いにきたら、本数はいくつにするのか、「ラストは自分で決めなさい」と言います。やらせる、と、自分からやる、の違いです。
――今後の目標を聞かせてください。
◆チームの目標は都市対抗野球、日本選手権の2大大会出場です。だから、迫る全日本クラブ野球選手権を制し、日本選手権の出場権を獲得することが、目の前の目標です。20年に都市対抗に初出場しましたが、あの時は勢いでたどり着いたと思っています。私を監督に選んでいただいた本当の恩返しは、次に2大大会に出場をかなえた時だと思っています。
もとにし・あつひろ 1962年、長崎市生まれ。瓊浦高から三菱重工長崎を経て、1987年、プロ野球の阪急(現オリックス)に入団。強肩の外野手として阪神、日本ハム、ロッテに在籍し、39歳で現役引退した。ロッテ、クラブチーム「千葉熱血MAKING」、楽天、韓国ロッテ、BCリーグ「信濃グランセローズ」の指導者を経て、ハナマウイで女子チームの指導に携わり、2019年、男子チームの創部と共に監督就任。千葉市在住。