トピック TOPICS
NTT西日本・伊原陵人投手が新たなステージへ 「出会いや縁を大事に、プロの世界に進みたい」 社会人野球NOW vol.53
大阪市・NTT西日本の伊原陵人投手(24)が昨秋、プロ野球・阪神タイガースにドラフト1位で指名を受け、今春、次のステージに進むことになった。圧倒的な応援を背に、プレッシャーの掛かる予選、都市対抗と日本選手権の2大大会で腕を振ってきた伊原投手。社会人野球からの「卒業」に際し、飛躍の2年間を振り返った。【聞き手 毎日新聞社野球委員会・中村有花】
=NTT西日本・伊原陵人投手(NTT西日本提供)
「スピード」求め、1年目オフに全身強化 2年目に成果を発揮
――奈良・智弁学園高、大商大を経て、2023年にNTT西日本に入社し、1年目から先発の柱として活躍されました。入社する前に決めていたこと、目標などはありましたか。
◆伊原投手 とにかく試合に投げる、フルシーズン活躍することを一番目標にして入社しました。その目標に関しては、完璧ではなかったですが、一年間、試合を投げ切れたというのは大きな経験でした。2年目を迎えるにあたっては、大学時代から自分に足りないと明確に見えていた部分へのトレーニングに本格的に着手しました。
――足りないと感じていたところとは。
◆もともとコントロールへの自信はありました。もちろん、変化球というところに関してもまだまだ足りないところだらけだったのですが、一番物足りなかったと思うのはまっすぐでした。その意見は(NTT西日本の)コーチとも一致していたので、重点的にトレーニングで鍛え上げました。その結果が2年目の成績にきちんと繋がったのかなと思います。
――まっすぐで求めたのは、「速さ」ですか、「質」ですか。
◆もちろん速さも足りていない部分ではあったのですが、速さを出すうえでは「質」も大事になってきます。ただ速いだけではいけないという思いはありました。
――どのようなトレーニングに取り組みましたか。
◆ウエートトレーニングには今まで以上に取り組みました。上半身も下半身も全身くまなくしっかり鍛えあげたというのは、本当に昨年のオフが初めてだったというような印象もあります。もちろん基礎作りの意味で、まずキャッチボールからフォームを固めるなど自分の理想の形に近づけていくための反復練習にも取り組みました。この1年は、自分を見直すという部分にも冷静に取り組めたのかなと思います。
=第49回日本選手権で先発したNTT西日本の伊原投手
一試合、一球に対する強い思いが社会人野球の魅力
――2年前、大学から社会人野球の世界に入りました。どんなところに違いを感じましたか。
◆バッターの技術レベルは全然違うなと思いました。簡単に三振を取れないし、ゼロに抑える難しさ、ここぞの試合に対する集中力なども違いました。トーナメントという点に関しては、大学時代の監督さんに、どの試合でも「この試合で負けたら終わりや」という厳しい声掛けを毎回していただいていたので、そこまで違う、という感じはなかったのですが、やはり一試合で持っているものを全て出し切るところの難しさというのはありましたね。
――社会人時代の一番印象に残っている試合は?
◆1年目の都市対抗予選です。そのまま本大会にも出場させていただきましたが、やはり、社会人野球の世界では都市対抗は「出なくてはいけない」大会。そういう大事な予選で先発を任せてもらえたというのは大きかったですね。近畿の2次予選準決勝の三菱重工West戦では、2-0とリードした八回に1点を取られてしまって降板にはなってしまいましたが、自分の思ってるような球をかなりの数投げれたところも良かったですし、試合を作ることもできました。1年目は本当にその試合が印象的です。
――成長を実感した2年間だったのですね。
◆そうですね。本当はどのJABA大会も、オープン戦も、無駄なことは一つもなかったと思うのですが、1番大きかったのは、本戦に出ないといけないっていうようなプレッシャーであったり、他の企業チームももちろん一生懸命にやってる中で、本当に厳しい戦いの中を勝ち抜くこと。その過程で、大きく成長できたと思います。
――社会人野球を「卒業」します。改めてこの世界の魅力は。
◆野球に対する「熱意」はやはりすごいなと思います。年齢関係なく、その一試合、その一球に対する思いが非常に強く出てるのが社会人野球の魅力だと思います。だから簡単に三振取れないという部分に繋がったり、ゼロに抑える難しさがあったり、その一球に泣いた試合っていうのが出てきたりするのだと思います。
――NTT西日本という企業、チームへの思いは。
◆会社全体の野球部のことをすごく思ってくれていることが伝わります。応援に関しても、迫力がすごいですし、予選からも多くの社員の方が来てくださいます。会社全体、社員みんなが野球部をサポートしてくれていることを感じる2年間でした。
また、チームメイトに関して言うと、本当に年齢関係なくみんなが仲良くて、とにかく明るい声が飛び交うチーム。ネガティブになるようなことがとにかく少ないところが一番いい部分だなと思いました。
=阪神から1位指名を受け、笑顔で記者会見に臨むNTT西日本の伊原陵人投手
1年間、しっかり走り抜けたい
――職場の環境はいかがでしたか。
◆職場では、毎試合どういう結果だったのかをちゃんと見ていて、仕事が忙しい中でも球場に足を運んで大きい声を出してくださっていました。本当に嬉しいことでしたし、ありがたいことでした。今年は都市対抗、日本選手権の両方に出られましたが、本当に職場の人たちの応援があって頑張れていると思います。ドラフトの後にも挨拶をしましたが、指名していただいたのが阪神ということもあり、関西圏ですし「嬉しい」という声も多かったですし、「絶対に球場にいかな!」っていうような声もいただいています。嬉しいですね。
――これからどんな投手になっていきたいですか。
◆今までやってきたことは、ずっと継続していかないといけないことも多いと思います。小学校、中学校、高校、大学、社会人と、本当にいい指導者の方に出会えて、いいチームで出会えて今の自分があります。その出会いや縁を大事にしながらプロの世界には進みたいと思います。
もちろん即戦力として期待されていると思いますが、しっかりコンディション調整をした上で、1年間、しっかり走り抜けることを「1年目の抱負」としたいです。将来的には球団を代表するような投手、日本を背負えるような投手になりたい。まずは目先のこと、1日を大事に、一年を大事に進んでいきたいと思います。
いはら・たかと 2000年8月7日生まれ。奈良県出身。奈良・智弁学園高では3年春の甲子園に出場。大商大に進み、2年秋の関西六大学リーグで最優秀投手となった。23年に入社したNTT西日本では、1年目から2年連続で都市対抗のマウンドを経験。身長170㌢、体重75㌔。左投げ左打ち。