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Uー23W杯連覇に導いた川口朋保監督インタビュー 社会人野球NOW vol.42

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世界野球・ソフトボール連盟(WBSC)が9月に中国・紹興市で主催した「第5回WBSC U-23ワールドカップ」で、侍ジャパンU-23代表が2大会連続3回目の優勝を果たした。社会人チームから選出された代表メンバーで構成し、出場12チームの頂点に立った。大会の総括と今後の抱負について、率いる社会人日本代表監督の川口朋保さん(53)に聞いた。【聞き手 毎日新聞社野球委員会・藤野智成】

 

=優勝までの戦いを振り返る川口朋保監督

初戦黒星から8連勝 「試合重ねるごと成長」

――連覇を成し遂げた大会を振り返ってください。

◆試合を重ねるごとに選手の成長を感じた大会でした。初めての国際大会となる選手が多く、海外の球場の雰囲気であったり、食事だったり、球場入りまでのスケジュール調整だったり、普段とは環境が違う中、いろいろと経験しながら成長できたと思います。6チームずつ2グループに分かれて総当たり戦を行うオープニングラウンドの初戦でプエルトリコに16敗れた時にチームで誓ったように、気持ちを切り替え、スーパーラウンドを勝ち進み、再び決勝でプエルトリコと対戦し、50で雪辱を果たすことができました。

 ――ポイントになった試合を挙げてください。

◆オープニングラウンド2戦目の中国戦と、3戦目のオーストラリア戦です。中国戦は、開催地の中国が相手ということで、球場が満員になり、完全アウェーの状態でした。そこでマウンドに立った長久保滉成投手(NTT東日本)が中国打線を1安打に抑えて完封し、2-0で勝利したことは、大会通じて大きなポイントとなりました。この試合、打線ではJR東日本のルーキー、髙橋隆慶選手が初回の先制打を含む2打点と活躍しました。チームに勇気を与える先制タイムリーだったと思います。髙橋選手は新人ですが、恐れずに初球からしっかり振っていくことができます。国際大会は初見の投手が多くなりますので、そこでいかにファーストストライクから積極的に振ってコンタクトできるかが、重要となります。その積極性によって、相手投手は警戒します。慎重になってフォアボールも増えて、得点のチャンスが広がります。

オーストラリア戦は、先発の後藤凌寿投手(トヨタ自動車)が先制こそされましたが、走者を出しながらも粘り強く投げました。打線では日本生命の髙田幸汰選手、東芝の山田拓也選手が積極的に振っていって、タイムリーを放った。4-1で逆転勝利したこの試合で、チームは「行けるぞ」と勢いづきました。

 ――初戦の敗退からの切り替えに成功したわけですが、短期決戦での切り替えは、簡単にはできないことだと思います。どんな仕掛けをされたんですか。

◆6月下旬から7月初旬に実施した選考合宿の時から、「チャレンジを続けよう」と繰り返して伝えてきました。チャレンジにリスクは付きものです。人間のやるスポーツですから、ミスしない人なんていない。ミスからいかに切り替えて、次のプレーに移れるかを大事にしてきました。エラーしたらどうしても落ち込む選手が多い。でも、みんなでカバーし合える、そんなチームを目指しましょう、と意識付けを図りました。選手も理解してくれて、体現してくれたことが結果につながったと思います。

 ――対戦相手のデータはありましたか。

 ◆チームによっては、プロの選手も入っているとは聞いていましたが、まだ23歳以下の若い選手なので情報は事前にはほとんどありませんでした。その中で、野口泰司(NTT東日本)、有馬諒(ENEOS)、小山翔暉(パナソニック)の3捕手は協力し、洞察力を発揮し、打者の特徴、狙い球を感じ取って配球に生かしてくれました。初戦以外の8試合は1失点以下で抑え、バッテリーを中心とした日本の守備力の高さは証明されました。また大会が始まると、クオリティーコントロールとして帯同したスタッフの谷本夏海さんと、山田幸二郎コーチでデータを収集し、選手に展開することで、日本チームの強みとなりました。

 =連覇を果たして帰国し、笑顔の代表選手たち

選手もスタッフも 醸成される一体感

――スタッフも含めて、チームに一体感がありますね。

◆選手同士、スタッフ間も含めて、全てそうですが、何でも話し合える関係性はとても大切です。自分の考えを伝えて、相手の考えを聞く。強化合宿などでは選手がグループになり、ポジションの違う選手とも「自分自身のこと」を語ってコミュニケーションを図ったり、それぞれ互いの強み、弱みなどを客観的に伝え合ったりしながら関係性を高めています。スポーツサイコロジストの布施努さん、チームドクターの可知芳則さん、スポーツメンタルトレーニング指導士の熊谷史佳さんらに講話もいただきながら、研修を積んできました。

 ――所属の違う寄せ集めの代表チームでは、主将の力も重要となります。

◆野口選手が主将を務めましたが、素晴らしい主将で、野口なくして、この優勝はなかったんじゃないかなと私は思います。勇気を与える声かけでチームを引っ張り、仮に自分が凡打になっても堂々としている立ち居振る舞いもよかった。メンバーからも「このチームの中心は野口だ」との目で見られていました。重責もあり、本来の打力は発揮できませんでしたが、それでもお釣りが来る働きでした。

  ――大会を通じて、世界の野球に変化は感じましたか。

◆開催国の中国はレベルが上がっていると感じました。投手の無駄なフォアボールはなくなっているし、バッテリーを中心とした守備力が非常に上がっていました。会場となった立派な球場を見ても分かるように野球の強化に力を入れていることが伝わってきました。初戦と決勝で戦ったプエルトリコは、井端弘和監督が率いて日本が優勝した8月のU-15ワールドカップ(コロンビア)でも決勝の相手でした。世代通じて一貫性を持って強くしようとする意識があるように感じました。

 ――アメリカのメジャーリーグでの大谷翔平選手の大活躍で、世界が日本の野球を見る目に変化はありますか。

◆大谷選手があれほどの活躍をしていますし、日本代表は昨年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で優勝しました。世界の国々に、日本を倒さないと優勝できない、という意識があるようには感じました。オープニングラウンドで対戦したイギリスの監督もそうでしたが、「日本と試合をしたい」という風に言ってくれる国が多く、すごくうれしく感じましたし、日本の野球をもっと発展させていきたいと思いました。

優勝の瞬間から 視線は次なる戦いへ

  ――次なる目標を。

◆来年にアジア選手権、再来年には愛知県で開催されるアジア競技大会があります。(24歳以上も出場する)アジア選手権、アジア競技大会は、対戦相手の投手陣のレベルが上がります。韓国、台湾はプロ選手が中心となりますし、中国も強化が進んでいます。強みであるバッテリーを含めた守備力に磨きをかけ、そこをベースに、いかに点を取っていくかというところを追求していきたいと思います。

――昨年10月の監督就任から1年となります。就任直後のアジア選手権を制し、今大会も優勝に導かれ、順調な船出となっています。

◆これは選手の頑張りに尽きます。スタッフの方々からも多くを学ばせてもらいながら、次はどんなアプローチをするかと日々、模索している状況です。日本の野球が国際大会で常にトップであり続けたいと考えていますし、代表を経験した選手たちの技術力アップにつながる場にしたいと意識しています。今大会の優勝はもう過去のことです。優勝した瞬間から、来年のアジア選手権に向け、どんなチャレンジをし、どう戦うかで頭はいっぱいです。重責ですが、やりがいを感じています。

=の金メダルと大会マスコットキャラクターを手にする川口朋保監督