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息づくカルチャー JR東日本ルーキー・杉崎成 社会人野球NOW vol.75

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96回都市対抗野球大会の代表32チームで、最多連続出場となるのはJR東日本(東京)だ。2010年の第81回大会から実に16年連続となる。代替わりを遂げながら伝統を築き上げてきた。「自分の入社した年に、連続出場を止めるわけにはいかなかった」。歴史を紡ぐ働きを見せたのは、22歳のルーキー、杉崎成(なる)だった。

=NTT東日本との第4代表決定戦で本塁打を放つ杉崎成

連続出場、伝統守る

負ければ連続出場が途切れる東京第4代表決定戦。相手はNTT東日本。1921年創部のJR東日本と1954年創部のNTT東日本。ともに都市対抗優勝経験を持つ伝統チームの対戦となった。7月4日夜、両社の社員らによる本大会さながらの応援合戦が展開され、神宮球場は熱気が立ちこめた。

チームは前夜の第3代表決定戦でHonda2-9で大敗していた。だが、崖っぷちに立たされた濵岡武明監督は選手たちを明るく送り出した。「関係者にとっては、面白いカードだろう。勝っても負けても責任は監督にある。今日はもっと楽しんでいこうぜ」

その言葉通り、伸び伸びとプレーしたのが、リードオフマンの杉崎だった。勝ち越された直後の五回に左翼席へ同点ソロを放って逆転の流れを呼び込むと、リードした八回にも左越えソロで貴重な追加点をあげた。いずれもイニングの先頭打者として出塁を心掛けた、力みのない軽いスイングで運んでいる。「ピッチャーとの駆け引きを楽しんでアジャストすることしか考えていなかった」。新人離れの心構えで、チームを6-4の勝利に導いた。

=一塁手としても気迫あるプレーを見せた杉崎

全6試合マルチ安打

名古屋市出身。東海大菅生高、明治大を経て入社した。大学時代は調子の波があった。力いっぱい振るあまり、一度崩れてしまうとスランプに陥った。入社後、指導を受けながら修正に取り組んだ。「7、8割の力で、肩と頭の間からバットを出すイメージ」で、ミートを心掛けるようにした。メジャーリーガーの大谷翔平の動画を見ても、簡単そうに打っているように感じ、フォームから力みを取り除いた。

その成果が東京2次予選6試合に表れた。初戦の明治安田戦で九回裏にサヨナラタイムリーを放つと、最後の第4代表決定戦を本塁打2発で締めくくった。全6試合でマルチ安打を記録し、28打数14安打7打点。安定感が生まれた。

敗戦から学んだ16年

この16年の間、チームは本大会で優勝1回、準優勝2回と華々しい成績を残してきた。だが勝負には相手があり、常に勝ち続けてきたわけではない。連続出場を遂げてこられたのは、社会人野球特有の敗者復活トーナメントで、しぶとく勝ち上がってきた証だ。一つの負けで終わりではなく、一つの負けを糧に次を目指すことができる、このシステム。連続出場は、敗戦から学ぶ修正力がチームのカルチャーとして息づいていることを示している。

昨年に続いて第4代表決定戦を制した濵岡監督は「最近は最後の枠(での出場)が多いですけど、しっかり勝ちきった。『ここを越えないと絶対に強くならない』と選手にも言っていたので、プラスに考えたい。心を強くするきっかけになる試合だったかと思います」と振り返った。

土壇場での勝利を弾みにチームは、また強くなる。「本大会でも1番打者を任されたら、足も絡めて、チームに貢献したい」。伝統を受け継ぎ、杉崎は東京ドームへ向かう。【毎日新聞社野球委員会・藤野智成】

※次回の社会人野球NOWは8月5日公開予定です。