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野球への「愛」と「声」で都市対抗を後押し DJ下村泰司さん 社会人野球NOW vol.79
8月28日に開幕した第96回都市対抗野球大会。開会式や開幕戦で東京ドームを盛り上げたのが、DJの下村泰司さん(52)だ。下村さんは甲子園出場経験もある元高校球児。6、7日の「マイナビキッズデー」イベントや8日の決勝でも、その声で選手や応援団らを後押しする。
=昨年の都市対抗野球閉会式で司会を務める下村さん
選手が主役 気をつけるのは「邪魔をしない」こと
下村さんは第94回大会から都市対抗のDJを努めてきた。「大の大人が負けたら終わりの一発勝負に懸ける。その熱さみたいなものがすごく好き。もちろん高校、大学の中でも選ばれた人たちが社会人プレーを続けているわけで、めちゃくちゃうまい。その野球がうまい人たちが、一生懸命ヘッドスライディングをしたり全力プレーする。これに毎年、胸を打たれています」。社会人野球への愛情が言葉の端々から伝わってくる。
仕事として大会に携わる前から社会人野球に興味があり、かつて社会人野球チームを持っていた企業の社長と一緒に都市対抗に観戦に訪れたこともある。「会社名をこんなに大きな声でコールすることはまずない。それが社長冥利に尽きる」と話していたことが印象的だったという。
それほど、社会人野球を理解しているからこそ、現場でのアナウンスでも配慮を欠かさない。その一つが応援団コンクールの紹介。「応援される皆さんが主役だと思っているので、アナウンスとして気をつけているのは邪魔をしないこと。応援団の音楽や声が最優先ということは一番気に掛けている」と明かす。
東京都出身の下村さんが野球と出会ったのはまだ未就学児の頃。兄の影響で小さい頃から一緒にボールを追いかけ、小学3年で野球チームに入団した。ポジションは常に4番・投手。1980年夏の甲子園で準優勝した早稲田実高のエース荒木大輔さん(元ヤクルト投手)の姿を見て同高に憧れ、1982年夏の甲子園では徳島・池田高の「やまびこ打線」に魅了されて引っ越してまで池田高への進学を夢見たこともある。その後、国学院久我山高に進み、主将を努めた1991年夏には1学年下の井口資仁さん(元ロッテ監督)とともに甲子園出場も果たした。大学卒業後はスポーツ実況をしたいと山形県の地元テレビ局に入社した。
「高校野球では地方だと全部の試合を中継する。早々に負けてしまうようなチームもあるけれど、きっとこの人の結婚式ではこの映像が流れるだろうな、と思いながらしゃべっていた。だから、できるだけ名前を呼ぶとか、褒めるとか、そういうところを心掛けていた」と振り返る。
99年に退社。「最高峰の野球を見てみたい」と米大リーグの試合を現地で観戦したことが人生の大きなターニングポイントになった。「野球はスポーツだがエンターテインメント。お客さんがいて初めて成り立つものなんだ、と肌で感じた。それまでは一生懸命やることが全てだったが、人に見てもらって、お客さんが喜んでなんぼだと気づいた。いかに魅了するかが大事かと言うことはアメリカで感じたこと。大カルチャーショックだった」。
現在は、米大リーグなどの試合のライブ配信を行う「SPOTV NOW」での実況を主に担当。日本のプロ野球や野球以外のスポーツの現場でマイクを取るなど、フィールドは多岐にわたる。
=今年も都市対抗のDJを務める下村さん
さまざまな種目を見てきた下村さんが野球の魅力の一つとしてあげるのが、「時間に制限がないこと」だという。「実際、高校野球の地方予選でも、0―8で負けていながら最終回で逆転した試合もある」
もう一つが「頭で考える」こと。高校時代から「どうやって相手から1点を取るかと言うことと、どうやって相手により1点を与えないか、それをずっと突き詰めて考えてプレーしてきた」という下村さん。「エースに球数を投げさせると終盤にチャンスが来る。だとしたら何点差以内にはいなければいけないとかそんなことを考えたり、どうやって勝とうかとデザインするのがすごく楽しかった」と当時を思い起こす。
そして、そのマインドは今の仕事にも繫がっている。「今はメーンでメジャーリーグの実況をやっているが、このピッチャーが投げているときはこの野手はどれぐらい打っているとか細かくシミュレーションをしながら準備をがっつりしている。全部話すことはないが、適材適所で出せるようにしておくことが大事」と語る。
=昨年のキッズデーでアナウンスを務めた子どもたちにアドバイスをする下村さん(右)
キッズアナウンサーへ「一生懸命、心を込めて叫んでほしい」
今年の都市対抗の登場は4日間。6、7日にはキッズデーがあり、「キッズアナウンス」のイベントには5人の子どもたちがメンバー発表や試合後のヒーローインタビューを務める。下村さんも子どもたちをサポートする。「一生懸命頑張っている大人たちの姿を見て、こういうかっこいい大人になりたいなと思ってもらえればと思うし、選手たちもそういう思いも持ってプレーしてくれたら。子どもたちは見ています。子どもたちが未来の野球の種を蒔いていると言うことは忘れないでほしい」と話す。
「今回の体験をすることで人前で喋る自信がついたとか、何か新しい扉が開く、そのきっかけになればいいなと思っている。人に何か伝えるとか、人に聞いてもらうことというのは人間の原点。最初はみんな緊張して、ちょっと嫌がったりもするけれど、それを勇気を持って踏み出せるというところでは、素晴らしい経験をしてることに後から気づいてくれるんだろなと思います。とにかく一生懸命、気持ちを込めて叫んでほしい」と助言する。
下村さん自身も選手たちのプレーを楽しみにしている。「おそらく今年の都市対抗を持って引退する人たちもいる。そういう人たちの最後の悪あがきを見たい」。全ての選手にマイクを通してエールを送る。
【毎日新聞社野球委員会 中村有花】
※次回の社会人野球NOWは9月9日公開予定です。