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「おまわりさんナイン」初のクラブ4強 「二刀流」の挑戦続く 社会人野球NOW vol.89

兵庫県警の現役警察官で構成される硬式野球クラブチーム「兵庫県警察硬式野球部 桃太郎」が、愛媛県で行われた今秋の第49回全日本クラブ野球選手権大会で初の4強入りを果たした。
=試合中に円陣を組む兵庫県警桃太郎の選手ら
創部15年目、初出場と古豪相手に競り勝つ
2011年に硬式チームとしてスタートを切り、今年が15年目で全日本選手権への挑戦は3回目。1回戦は、創部2年目で初出場のトッキュウブルーローズ(北海道)との接戦を制した。序盤からリードを許す展開になったが、五回に下位打線がつながり、振り出しに戻した。六回以降も着実に加点し、粘る相手を振り切って6―5で初戦を突破した。
2回戦は100年以上の歴史がある水沢駒形俱楽部(岩手)が相手。七回まで打線が沈黙したものの、八回に中軸が意地を見せて同点に。さらに、この試合で先発マスクを任された江端宙斗(ひろと)選手が持ち味の「勝負強い打撃」を体現し、満塁本塁打で決着をつけた。
初のベスト4進出の勢いにのって頂点を目指したが、準決勝では優勝候補のマツゲン箕島(和歌山)が立ちはだかった。西近畿予選でも0―5で敗れた相手。三回に先制したものの、中盤以降じわじわと失点し、流れを取り戻すことができなかった。それでも、永井一匡監督は「終盤で声が切れなかった。追加点を取られた段階で、見ている人たちは『終わったかな』と思ったかもしれないけれど、ベンチ内は全員が『絶対やってやる』という雰囲気を壊さなかったから最後まで諦めずに戦うことができた」と最後まで粘り強く戦った選手たちをたたえた。
=全日本クラブ選手権2回戦で満塁本塁打を放った兵庫県警桃太郎の江端宙斗選手
3交替勤務を調整、1時間以上かけて練習参加も
都道府県警察で硬式野球部があるのは、兵庫県警察のほかに警視庁のみ。活動の目的は優秀な警察官の育成、人材確保が目的だ。現在は35人の選手が在籍し、兵庫県三田市を拠点に練習を重ねている。選手は県内各所の交番勤務の選手が多く、別名「おまわりさんナイン」。「泊まり」「非番」「公休」の3交替勤務を調整して練習に励む。永井監督は東播地域の交番で勤務しており、練習拠点までは1時間以上かかるというが、長い道のりを通いながらチーム作りに心血を注ぐ。
2回戦で満塁本塁打を放った江端選手は兵庫・滝川第二高から専修大に進み、警察官の道に進んだ。チームの存在を知ったのは大学の監督からの助言だったという。「24時間勤務で朝、仕事が終わって、夕方から練習がある時はしんどい。でも、日本選手権に出ることを目標に頑張っています」と笑顔を見せる。
「4番・指名打者」で全3試合に先発出場した後藤龍太朗選手は、プロ野球・西武ライオンズの選手だった父・光貴さんの影響で野球を始め、大阪桐蔭高から国士舘大を経て、警察官になった。「市民を守りたい、困っている人を助けたいという気持ち」に加え、野球を続けたという思いから進路を決め、採用試験5回目の挑戦で合格を勝ち取った。
高校時代は同級生の根尾昂選手(中日)、藤原恭大選手(ロッテ)らの活躍で、2018年に甲子園で春夏連覇を達成した。ただ、後藤選手自身はなかなかベンチ入りメンバーに入ることができなかった。「春夏優勝はうれしい反面、悔しさもあった。でもその気持ちを持ち続けているから今がある。同級生も頑張っているので、自分もそのメンバーに恥じないように頑張ろうという気持ちで常に仕事や練習に取り組んでいます」と明かす。
=試合後、相手と健闘をたたえ合う兵庫県警桃太郎の永井一匡監督(左端)
「市民を守る」「日本選手権出場」 警察官と野球、「二刀流」の志
大きな使命を背負いながら、グラウンドに立つ「おまわりさんナイン」。全日本クラブ選手権制覇と優勝チームに与えられる日本選手権への出場を目標に、挑戦は続く。【毎日新聞野球委員会・中村有花】
※次回の社会人野球NOWは12月9日公開予定です。