トピック TOPICS
半世紀の歴史を刻む全日本クラブ野球選手権大会 クラブ野球レジェンド紹介・上 社会人野球NOW vol.109
クラブチーム日本一を決める全日本クラブ野球選手権大会(9月7日決勝・東京ドーム)は今夏、50回目の節目を迎える。それを記念して、全国九つの日本野球連盟地区連盟から、クラブ野球の歴史に名を遺す「レジェンド」を推薦いただいた。3回に渡り、彼らの軌跡を紹介する。
◇近畿地区連盟推薦
マツゲン箕島硬式野球部副理事長・西川忠宏さん(65)

=2025年の全日本クラブ野球選手権で優勝し、胴上げされる監督時代の西川忠宏さん(中央)
クラブチームの在り方とは何か。その一つのモデルケースを作り上げた立役者だ。
和歌山県立箕島高、電電近畿(現NTT西日本)で内野手として活躍。選手として第一線を退いた35歳の時、関西の甲子園常連校OBが集う同期会で「後輩たちに野球を続けられる環境を作らなければ」と話題が出たのをきっかけに、1996年、箕島高のOBを中心に立ち上げられた箕島球友会の発起人として名を連ねた。
チーム創設当初は選手兼コーチとしてグラウンドに立ち、98年には監督に就任。「和歌山箕島球友会」「マツゲン箕島硬式野球部」へと名称が変わっていったチームを、全国屈指の強豪へと育て上げた。
その活動はグラウンド内にとどまらない。チーム全体運営にも携わり、支援企業の拡大、地域との交流、行政との連携など、一歩づつ実績を積み上げた。特定非営利活動法人(NPO法人)化を実現し、地元・有田市から市体育施設指定管理者の受託も取り付けた。総合型スポーツクラブ発足とチームの基盤づくりにも取り組み、「市民球団に向けた活動として一つのカテゴリーを作れた」と自負する。
「和歌山県スポーツ奨励賞」「有田市スポーツ賞」をそれぞれ7回受賞したほか、「地域の元気総務大臣奨励賞」「有田市市政功労善行者表彰」を受賞するなど、その功績は周囲からも高く評価されている。また有田市から「ふるさと納税」の指定も受けて、寄付金によりチーム強化を支援できるようにするなど、活動の幅は広がる一方だ。
行政と雇用先企業、チームを運営するNPO法人の3者が支え合う独自の「箕島モデル」を作り上げながら、「今年で創部30年を迎えましたが、まだ新たなチーム作りを考えています」と意欲はいまだ、とどまるところを知らない。その歩みは、クラブチームの未来を示す道しるべとなっている。
◇中国地区連盟推薦
倉敷ピーチジャックス初代監督・大倉孝一さん(63)

=大倉孝一さん
岡山・玉島商高から駒大、日本鋼管福山(現JFE西日本)と捕手として活躍。その後、NKKや駒大のコーチを経て、2006年に地元・岡山県でクラブチーム「倉敷ピーチジャックス」を立ち上げ、初代監督に就任した。「地元・岡山の企業チームが消えていく中で、若者が硬式野球を続ける環境を作らなければという危機感がチーム立ち上げのきっかけ。高校、大学、社会人と第一線で野球をやらせてもらった自分にとって、若者に充実した野球環境を与えたい一心だった」と当時を振り返る。
創部翌年の07年には全日本クラブ野球選手権大会に初出場し、ベスト8に進出。その後も3度、本大会へとチームを導き、新興クラブの存在感を全国に示した。
さらにはレディース部の立ち上げや野球教室の開催、ティーボール教室の定期開催など地域貢献活動にも積極的に取り組み、野球の裾野を広げた。チームスローガン「自立・自覚・自主」の精神は、現在のチームにも脈々と受け継がれている。
自らは、女子野球日本代表の監督として08年、10年、14年、16年のワールドカップで優勝。17年から7年間は母校・駒大の監督を務め、指導者として輝かしいキャリアを築いてきた。今春からは、倉敷市に本拠地を置くくらしき作陽大に新設された硬式野球部の監督となり、新たな道筋から地元球界に貢献しようとしている。
「ピーチジャックスの創部から20年以上、若者が野球に携われる環境を作れたことに充実感と感謝を感じています。少しでも野球への恩返しができたのかな」
百戦錬磨の野球指導者の原点には、地域とともに在るクラブ野球への熱い思いがあった。
◇北信越地区連盟推薦
新潟コンマーシャル倶楽部監督・古川昇さん(51)
=新潟コンマーシャル倶楽部の古川昇監督
1916年創部と長い伝統を誇る新潟コンマーシャル倶楽部で、選手、指導者として30年間を過ごしてきた。「ここまで長くやるとは思っていなかったですが、すっかり野球の魅力に取り付かれてしまった」と振り返る。
高校時代は硬式野球部。卒業後は草野球の軟式でプレーしていたが、「スピード感のある硬式ボールの感触が忘れられなくて」と、21歳の時にチームに加入した。選手として全日本クラブ野球選手権大会に7度出場し、2014年からはコーチを兼任。クラブ野球の楽しさも厳しさも知り尽くした経験は、現在の監督業に生かされている。
新潟県内の同世代の監督たちと大会を自主運営するなど、チームの枠を越えて地域の競技力向上に力を注いできた。リトルリーグの指導者としても15年以上にわたって子どもたちの育成に携わり、自分の息子を含む教え子の中には、新潟コンマーシャル倶楽部でプレーする者もいる。「今でも教え子たちが一緒に野球を続けてくれていることはうれしい限り」。今後はリトルシニアや高校野球との連携も深め、地域全体で野球人を育てる環境づくりを目指している。
チームの目標は第32回大会(07年)を最後に途絶えている全日本クラブ野球選手権大会への出場だ。「かつては全国大会の常連だった。もう一度全国の舞台で輝きたい。111年のチームの歴史を、しっかりとつないでいかないと」。老舗チームの復活を自らの使命として、心に期している。
【毎日新聞社野球委員会・和田崇】
※次回の社会人野球NOWは6月16日公開予定です。
